IF India's Blog

バンガロールでシード投資を行うIncubate Fund India パートナーのブログです。

OnionFans

最近、OnionFansという、インドのスタートアップエコシステムを取り上げるメディアを立ち上げたHutu氏とミーティングを持つ機会があった。

まだ、一回しか会っていないのでなんともですが、感じたことを少し。

 

OnionFansはオンラインメディアを運営するとともに、毎月紙媒体でスタートアップエコシステムに関するマガジン"Technology Issue"も提供している。現状は英語で書いているが、来月から全てを中国語に翻訳して中国へ発信していくとのこと。

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彼は、元々中国でベンチャーキャピタリストをやっていて、3ヵ月程前に突然バンガロールへやってきたらしい。

彼の狙いは明確で、「中国には投資家がいて、お金がある。それも大量にある。みんなインドのスタートアップへの投資に興味があるが、情報がない。だったら、それを集めて提供出来る立場になったら強いからね。それをやる。」

 

中国も日本と同様に英語圏ではない。

確かに、インドのスタートアップ情報はYour Storyを始めとした色々なメディアで取り上げられていて、海外からでも手に入る。

でも「そんなの、中国人読まないよ。ピッチ資料でさえ、中国語に翻訳してないとちゃんと読まない投資家が多いくらいだから。」との事。

これは、一理あるなと感じる。

実際、彼らはすでに、今月初には中国の投資家40社程度を招いての3日間のスタートアップとのミートアップイベント(Date With Chinese Investors)も実施している。この辺のスピード感はやっぱり凄い。見習いたい。

 

彼は、「まずはOnionFansというメディアを立ち上げ、その立場で大量のスタートアップとその他のエコシステムのプレーヤーとのネットワークを作る→同時に、中国国内で“インドのスタートアップと言えばOnionFans”というプレゼンスを作る→その後、その情報をレバレッジして中国の投資家との橋渡しでビジネスをする→その上で、最終的には自分のファンドを組成する」ことを目指している。

 

(ちゃんと投資自体が出来るかは別にして)この流れ自体はうまく行く気がしている。

国をまたいで、且つ言語も違うとなると、やはり情報ギャップは大きく、まして投資活動と言うのは「情報が命」な部分が多分にある。

そこを埋める事でポジションを取って行くというのは、正しい気がする。

 

僕らも含めて新参者は、スタートアップと一緒で自分たちを内外に認知してもらう事が非常に大切。

そう考えると、自己発信の為のメディアというのはなかなかにバカに出来ないツールなのだよなと思う。正しく、広く自分たちを理解してもらう事が次に繋がる。

これは、インドでの投資家やエンジェルとの情報交換でもそうだし、日本や中国という母国への情報提供でもそうだと思う。

「情報発信していない人のところには、情報は集まらない」というのは、新卒で入った会社で上司からよく言われていた事。

この辺は、日本だとSkyland Venturesの木下さんとか凄く意識してやっていると思う。


 

Incubate Fund Indiaとしても、OnionFansのこの辺りの考え方と動き方は勉強になるし意識していきたいところ。

 

情報発信の価値は感じつつ、一人でオペレーションしている中で、どうやって上手くやっていこうかな・・・と考える。

そういう意味でも、OnionFansとは色々とコラボレーションの機会もありそうなので、これから議論を進めていこうと思っている次第です。

中長期で考えた時に、インドにおける中国の役割やポジションって重要になってくるとも思うし、パイプ自体もとっても重要だと思うので。

 

※ちなみに、インドの起業家サイドも中国の投資家やエンジェルに対しては結構興味がある/期待していることも多いなと感じており、多くの場合その理由は「中国は大国で、そこでスケールさせるビジネスを見て来たノウハウというのはインドでも応用が効く可能性が高いから」というものだ。

これも、結構納得感がある。

 

 

 

 

投資家の見方:GMV→Unit Economicsへ

フードテックで名を馳せていた、TinyOwlが先日ムンバイ以外の都市でのサービスをシャットダウンした。

先月にはハイパーローカルの雄、PepperTapもシャットダウンの上でのピボットを余儀なくされている。


どちらも、大型の資金調達をして、華々しかったスタートアップだ。

(PepperTapは$40M、TinyOwlも$25M以上調達)

その他でも、ハイパーローカルやフードテックの会社は軒並み厳しくなっており、レイオフや各都市でのシャットダウンのニュースが続いている。

 

この辺のニュースが出るのと前後して、少し前からインドの投資家の目線が、「GMV重視」から「Unit Economics重視」へとシフトしてきている感覚がある。

 

少し前までは、インドの投資家も起業家も、結構GMVの成長に重きをおいてビジネスを見ていた様に感じていた。

「確かに今は利益でていないけど、これだけ巨大な市場なのだから、GMV伸ばし続けてライバル蹴落とせば、どこかで利益出せるはず」という見立てのもと、お金じゃぶじゃぶつぎ込んで成長させた。でも、一向に利益出ないで、最後には苦しくなりました。」というのが、前述の2社のケースだと思う。

 

インフラが整っておらず、小規模のマーケット/店舗が分散しているインドにおいては、ハイパーローカルもフードデリバリーも、どちらも明確に消費者ニーズのある領域だ。

だって、買い物行くのはメチャクチャ不便だし、コンビニはほぼ存在しないと言っていいし、道は渋滞しているし、商店/レストランは分散しているし、etc。

だから、お金を投下してマーケティングすることで、GMVはある程度伸び続けたのだと思う。

 

一方で、ケチでミーハーなインド人(失礼!)をユーザーとして獲得するには、有効なのはディスカウントとマス広告であって、過当競争に陥ったバーティカルにおいてはCACが高くなる。

同時に、似た様なアプリが沢山存在するので、インドのスマホ容量の小ささとも相まって、すぐ使われなくなる=LTVはそこまで伸びない。

結果、「GMVは伸びてもどこまで行っても利益が出ない」という構図に陥ってしまっているスタートアップが多いのだと思う。

 

ハイパーローカルやフードテックは「人やモノを動かす」という事がビジネスの根幹にあるため、どうしても重たいビジネスモデルになってしまい、影響が顕著に出た。

だけど、その他の領域も「CAC高い割にLTV低い=利益でない」という構図は多くのインドのBtoCサービスに共通だと思われ、今後も厳しくなってくるところは沢山出てくる様に思う。UrbanClapやHouseJoyといったサービスコマース系もそろそろ厳しくなるんじゃないかな。

 

そんな中で、投資家の目線がUnit Economics重視になるのは自然な流れ出し、むしろもっと早くそうなるべきだったのかなとも思う(もちろん、ずっとそこを重視して見続けている投資家もいる)。

 

でもそうなってくると、ピュアなBtoCサービスだと、投資テーマとなる領域を見つけるのはインドではなかなかに難しくなってくる。

ので、今年は優秀なエンジニアが安く活用出来るという点でインドがコストメリットを享受出来、かつグローバルなマーケットを狙えるという意味でのSaaSや、Unit Economicsがまわしやすく、スティッキーで利鞘も大きめになりやすいBtoBコマースなどにお金がまわりやすくなる流れになるのかなと思ったりしている。

 

いくつかの投資家からは、「今年はシード投資家にとっては(昨年に比べると)明らかに良い年になって行くと思う。一方で、今は大きく潮目が変わるタイミングでもあるので、しばらくは焦らずに様子見のスタンスでいる。」とのコメントも聞こえる。

 

シードの投資家にとっては、自分たちの個社に対する選球眼と同時に、次以降のラウンドにつなげていくという意味で、マーケット全体の流れ、投資家全体のマインド/トレンドというのも重要になってくると思う。

この辺は、現地の投資家や起業家とディスカッションを重ねる事でしか見えてこないので、意識して継続していきたいと思う。

 

個人的には、ネットが入り込む事で、人々の生活に劇的に変化が生まれるというBtoCのサービスってやっぱり好きなので、ここをディスカウントとマスマーケティング偏重にならずに、しっかりスケールさせられる美しい会社に出会いたいなと思う・・・けど、なかなか現実は甘くない。頑張りますー!

 

Incubate Fund Indiaとして、インドで投資活動をはじめます。

Incubate Fund Indiaとして、インドでシード投資を開始します。

まずは、3.1億円の小さなファンドで、一年間で10-15社程度への投資を目指します。

これから、このブログではインドでの投資活動において感じた事などについて、発信していきたいと思います。

 

IF Indiaの投資アプローチとしては、以下の点を意識していこうと考えています。

1)起業家に誰よりも寄り添う投資家でいること

当たり前と言えば当たり前なのですが、ここ2週間程多くの起業家と話していて、「この点は結構響くんだな」というのを感じています。

インドのシードVCと話していても、定期的なミーティングを投資先と持っているというところは意外と少ない印象で、「何かあったら連絡して、そしたら話し聞くよ」という姿勢のところが多い気がしています。

これは、インドが広大な土地であり、スタートアップシーンでみても主要都市がバンガロール、デリー/グルガオン、ムンバイ、ハイデラバード、チェンナイなど複数都市に分かれている事からも、しょうがない部分ではあります。

一方で自分は、(当面は)一人でのオペレーションですので、バンガロールに常駐して、原則バンガロールとその周辺都市のスタートアップにのみ投資していく方針でいます。

起業家、特にシード投資を受ける様な初期の起業家は、それが初めての起業の場合は新たなチャレンジの連続であり、右も左もわからずに結構孤独だったりします。

そこに対して、最大限寄り添い、「定例のミーティングも持つし、24/7でいつでも会うよ!パートナーとして、一緒に成長しようよ!」というスタンスで臨みたいと思っています。

 

2)データドリブンなアプローチを徹底すること

インドのスタートアップは、大きなマーケットが目の前に広がっていることからも、比較的大きく一気に面を取りにいく成長戦略を取りがちです。

それはそれで正しいことも多いのですが、一方でしっかりとUnit Economicsを考え、マトリックスをコントロールし、ROIを強く意識して行くという姿勢が弱い企業も多いな、と感じています。

この辺りは日本のベンチャーの方が徹底してやれている感覚があるため、そのノウハウや経験値をしっかりと伝える事で、インドのスタートアップのバリューアップを図れればいいなと思っています。

昨日も某VCのパートナーと会話していたのですが、「起業家が先走りたくなるのはある意味でしょうがない部分はある。一方で、そこに対して常に周りから“Unit Economics!" "Matrix Control!!" "ROI!!!"と言い続けてあげる人間がいないといけない。インドは投資家は多いけど、こういったことを言い続けてあげられる人は本当に少ないよ。」とコメントしていました。

そもそもインドは、最小の資源とコストで最大の成果を生み出す「Frugal Inovation」の聖地。だったらやっぱり、"Be Frugal"を徹底していこうよと。

ここでは、日本では「当たり前」なことを「当たり前」に伝えていく事で、結構意味があると思っているので、意識していきたいと思っています。

 

3)アジアのベストプラクティスハブを目指すこと

幸運な事に、Incubate Fund Indiaには力強い仲間がいます。

母体であるIncubate Fundは日本で最も成功しているシードVCの一つですし、姉妹ファンドのKK Fundは東南アジアで非常に強いプレゼンスを築いています。

これらの仲間とインドのスタートアップを繋ぐ事で、お互いに学び合える事は多いと思っています。

日本、東南アジア、インドの三局をシームレスに結びつけていく事で、「アジアのベストプラクティスハブ」であることを目指したいと思っています。

 

4)バーティカルよりもビジネス構造

一昔前のFood Techや昨年のHyper Localなどの様に、ホットなバーティカルと言うのはこれからも毎年の様に出てくると思います。一方で、そういったバーティカルにはお金が集まりやすく、ビジネス構造を無視してバリュエーションが不当に高くなっているケースも散見されます。

個人的には、そういったホットなバーティカルは当然意識はしつつも、それに振り回される事なく、ビジネス構造として大きく成長出来るかどうかをしっかりと見て投資判断をしていきたいと思っています。

BtoBのプロダクトならば、「コストメリットをもってグローバルに展開出来るのか?それが実現出来るチームなのか?」、BtoCやBtoBtoCの場合は「既存の業界構造にデメリットが多く、それを一気にリプレースできるモデルなのか?」「新しくマーケットを創るのではなく、既に存在している満たされないニーズを満たしにいくモデルなのか?」などなど。

基本的にインドはカオスであり、社会構造的にいろいろな問題点があります。

ですので、+αの付加価値をつけていく「ポジティブ付加型」のビジネスより、マイナス点をゼロに近づけていく「ネガティブ解消型」のビジネスの方が一気に伸びるし、成功が読みやすいと思っています。

 

5)適正なバリュエーションの意識

これも当たり前なのですが、「しっかりと、適正なバリュエーションで投資する」と言う事を常に頭の中に置いておきたいと思っています。

どんなに良い会社であっても、原則として自分たちの考える適正なバリュエーションレンジを外れている時は一旦冷静になる。そして、場合によっては勇気をもって見送る。

それは、もしかしたら将来のユニコーンを逃す事になるかもしれませんが、それはしょうがないと考えて、ディシプリンを持って投資していきたいと思っています。

インドは毎年4000社以上がスタートアップしている国ですし、投資候補先を見つける事自体はそんなに難しくはないと思っています。「その中でいかに筋のいい会社を選別し」、「そこに適正なバリュエーションで投資出来るか」が成功の鍵だと考えています。

 

上記の点に加えて、いかに良い投資家とCo-Investmentしていくか?なども意識しています。

 

とにかく新参者として活動を開始しますので、まずは最初の2−3社へしっかりと投資実行し、「お、Incubate Fund Indiaってちゃんと考えて、いい所に投資しているじゃん!」とインドの投資家&起業家に思ってもらえるよう、頑張りたいと思っています!